2007年 10月 11日
マクロリオンの囚人
カブール市内からシャシ・ダラックを抜けて空港に向かう道沿いに、アフガニスタンには似つかわしくないほど整然と立ち並ぶ団地がある。その名はマクロリオン団地。日本の公団を彷彿とさせる鉄筋コンクリート作りの建物は、旧ソ連が空港で働く人やパイロットを住まわせる為に建設したと言われている。今では、比較的裕福なアフガニスタン人が住む住宅街になっている。

車窓から見えるマクロリオン団地の佇まいはどこか悲しげで、見るたびにいつも僕の胸に、何か知っているんだけどどうしても思い出せない、そんな気持ちの悪い感覚を思い起こさせる。幼い頃に店員に見つからないようにそっとお菓子をポケットに入れた時に感じたような、情熱的で刹那的で背徳的な甘酸っぱい感覚が。

一瞬、目の前の空間が割れて、自分の記憶ではない過去が脳裏にフラッシュバックする。

マクロリオン団地の狭い部屋に詰め込まれて、檻にはめられた鉄格子から呻き声をあげる囚人の声が聞こえてくる。食べ物をくれと口に手をやるもの、看守に向かって悪態をつくもの、ただ下を向きながらアッラーにお祈りを捧げるもの。壁には彼らの体臭と古い建物の匂いが混ざり合ったすえたような匂いが充満している。

建物の中はひどく薄暗い。ただ裸電球が剥きだしで等間隔に天井からぶらさがっているだけだ。そこは、人間らしさというものを完全に無視した場所だ。ただ、人をある一定の期間置いておく為だけに作られた場所。

建物の外側にある白い十字型の模様には、誰のものかわからない血がこびりついている。模様の白との対比で異様に血の赤が明るく見える。その様子は全く残酷でなくて、むしろ美しいものに見える。美しくて儚くて残酷な少女の鮮血のように。

「ミスター・ケンタ、クジョ・メイリ(ミスター・ケンタ、何処に行くんですか)?」

「ホー、ダフタル・ブレム(あー、事務所まで)。」

ドライバーの声に無感情に反応して答える。僕はまだなんとか現実の世界と結びついていたみたいだ。

車の助手席で目を閉じながら、マクロリオンの囚人の声が耳の奥で反芻している。
あなたにも彼らの呻き声が聞こえないだろか。

e0016654_11595376.jpg

→カブール地図
[PR]

by aokikenta | 2007-10-11 12:01 | 日記(カブール)


<< 今夜セレナで会いましょう      現場雑観行きます!3 >>