2007年 07月 17日
秋野豊ユーラシア基金『ユーラシア・ウォッチ』
秋野豊ユーラシア基金のメールマガジン『ユーラシア・ウォッチ 第114号』(2007年7月16日発行)に、寄稿した記事を掲載して頂きました。下記に転載するので、ご覧頂ければ嬉しく思います。

秋野豊ユーラシア基金は、元筑波大学の国際政治学者で、国連タジキスタン監視団の政務官として活動中に武装勢力の凶弾により無くなった秋野豊氏を追悼して設立されました。世界の紛争と平和に関心を持つ若者を支援していこうという志のもと、ユーラシア紛争調査研究プロジェクト『秋野豊賞』をはじめとして、国際交流、国際理解教育、啓蒙普及などの活動を行っています。

HPから簡単に購読できるメールマガジン『ユーラシア・ウォッチ』では、アジア、中東からヨーロッパまでユーラシアに関する政治や安全保障に関する文献情報やエッセイなど、興味深い情報を仕入れることができます。面白い情報満載で、月に2回ほどの適度な配信なので、関心のある方にはお勧めです。

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(以下、本文)
「Demining is Jihad(地雷処理とはジハードである)」  青木健太

 「Jihad means struggle (ジハードとはストラグルのことだ)」。スタッフの一人、敬虔なイスラム教徒であるラハマトラー・ハムダルド(38歳)が僕に言った。「ジハード」という言葉は日本ではイスラム聖戦や報復というような血生臭いイメージで報道されることが多い。それ故、日本人の中には、「ジハード」という言葉が報復の為に人を殺す事や自爆テロのことを意味すると思っている人もいるかもしれない。しかし、「ジハード」とは、アラビア語で「努力する」という意味の動詞が語源であり、本来は「崇高なる目標に対する努力や苦闘」を意味する。「ジハード」の果てに命を落とした者はmartyr(殉教者)として尊敬を受け、遺族や友人から特別な畏敬の念を持って埋葬される。

 1979年のクリスマス・イヴに始まった旧ソ連のアフガニスタン侵攻では、「ジハード」という言葉が求心力を得て、アフガニスタン側にイスラム世界から多くの有志を集めた。こうした背景から、イスラム教徒自身によって「ジハード」という言葉が「イスラム教の聖戦」として利用されたという側面も無視できない。こうして西欧社会や日本において広く流布された「ジハード」という言葉の誤った解釈が、イスラム教とテロを結び付けて、イスラム教は危険な宗教であるというような間違ったイメージに通じているのかもしれない。

 ラハマトラー・ハムダルドは付け加えて言う。「Demining is a struggle for making better Afghanistan, therefore demining is Jihad(地雷処理とはより良いアフガニスタンを作る為の苦闘なんだ。だから、地雷処理とはジハードなんだよ)」。(1)「ジハード」とはストラグルである、(2)地雷処理とはストラグルである、従って、(3)地雷処理とはジハードである。アフガン人スタッフから聞く予期せぬ三段論法が僕の胸を強く打った。

 旧ソ連の侵攻、ムジャヒディン同士による内戦、タリバン政権樹立、9.11後のアメリカ空爆など、アフガニスタンは25年以上に及ぶ紛争を経験し、国土には無数の地雷・不発弾が残された。地雷は、交通の要衝、灌漑施設の周辺、農耕地、放牧地、住民居住地域等、戦略上重要な場所に、敵の殺傷、もしくは、陣地の防衛を目的として撒かれた。地雷はほとんど腐食することがない。従って、今も尚、地雷によって手足を失う人々が後を絶たず、月間300人とも言われる人が地雷の被害にあっている。

 こうした状況を受けて、アフガニスタンでは現在、ドナー各国の支援を受けて、8,000人とも言われる地雷処理員が活動をしており、一つの産業としてはアフガニスタンで最大と言われている。危険を伴う地雷処理だが、アフガニスタンの復興の為に命を賭けている地雷処理員は、アフガニスタンの人々から尊敬を集める。何故なら、地雷を取り除けば、そこには農民が畑を耕すことのできる大地、羊を放牧することのできる大地、子供達が安全に走り回ることのできる大地があるからだ。地雷処理は、アフガニスタンが新しい国作りをしていく為の礎となる作業であり、身命を賭して母国の為に地雷を取り除く地雷処理員の行為はまさに、崇高な目標の為の努力「ジハード」なのである。

 象徴的なのは、世界中の多くの宗教がそうであるように、イスラム教でも「人間は土から生まれた」と考えられていることだ。アフガニスタンのシーア派の人々の多くは、お金と余裕があれば、イランのマシュハドに巡礼したいと思っている。第8代イマム・レザーが眠るハラムと呼ばれる廟を訪れ、まるで高校球児が甲子園の土を持ち帰るように、マシュハドの土でできた小さくて丸い煉瓦を家に持ち帰るのが夢なのだ。アフガニスタンが新しい国を作っていく為の土台となる大地が、人間を生み出したと信じられる土によって構成されているという事実関係は、アフガニスタンにおける地雷処理の重要性を雄弁に語っている。

 人間は土から生まれ、そしてまた土へと帰って行く。生命の根源たる大地。アフガニスタンが生き生きとした未来を手にする為には、その母なる大地を再び取り戻すことが不可欠だ。

(本文終わり)
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(以下、メールマガジン転載)
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         ◆◆ ユーラシア・ウォッチ ◆◆
              Eurasia Watch
         編集・発行:秋野豊ユーラシア基金
http://www.akinoyutaka.org
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 第114号                        2007年7月16日
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             ◇Contents◇

       ・エッセイ/ゆーらしあの風
        「地雷処理とはジハードである」(青木健太)
       ・文献紹介

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■エッセイ/ゆーらしあの風■

 Demining is Jihad(地雷処理とはジハードである)

        青木健太(日本地雷処理を支援する会[JMAS]カブール事務所)

 「Jihad means struggle (ジハードとはストラグルのことだ)」。スタッフ
の一人、敬虔なイスラム教徒であるラハマトラー・ハムダルド(38歳)が僕に
言った。「ジハード」という言葉は日本ではイスラム聖戦や報復というような
血生臭いイメージで報道されることが多い。それ故、日本人の中には、「ジハー
ド」という言葉が報復の為に人を殺す事や自爆テロのことを意味すると思って
いる人もいるかもしれない。しかし、「ジハード」とは、アラビア語で「努力
する」という意味の動詞が語源であり、本来は「崇高なる目標に対する努力や
苦闘」を意味する。「ジハード」の果てに命を落とした者はmartyr(殉教者)
として尊敬を受け、遺族や友人から特別な畏敬の念を持って埋葬される。
 1979年のクリスマス・イヴに始まった旧ソ連のアフガニスタン侵攻では、
「ジハード」という言葉が求心力を得て、アフガニスタン側にイスラム世界か
ら多くの有志を集めた。こうした背景から、イスラム教徒自身によって「ジハー
ド」という言葉が「イスラム教の聖戦」として利用されたという側面も無視で
きない。こうして西欧社会や日本において広く流布された「ジハード」という
言葉の誤った解釈が、イスラム教とテロを結び付けて、イスラム教は危険な宗
教であるというような間違ったイメージに通じているのかもしれない。
 ラハマトラー・ハムダルドは付け加えて言う。「Demining is a struggle
for making better Afghanistan, therefore demining is Jihad(地雷処理と
はより良いアフガニスタンを作る為の苦闘なんだ。だから、地雷処理とはジハー
ドなんだよ)」。(1)「ジハード」とはストラグルである、(2)地雷処理
とはストラグルである、従って、(3)地雷処理とはジハードである。アフガ
ン人スタッフから聞く予期せぬ三段論法が僕の胸を強く打った。
 旧ソ連の侵攻、ムジャヒディン同士による内戦、タリバン政権樹立、9.11後
のアメリカ空爆など、アフガニスタンは25年以上に及ぶ紛争を経験し、国土に
は無数の地雷・不発弾が残された。地雷は、交通の要衝、灌漑施設の周辺、農
耕地、放牧地、住民居住地域等、戦略上重要な場所に、敵の殺傷、もしくは、
陣地の防衛を目的として撒かれた。地雷はほとんど腐食することがない。従っ
て、今もなお、地雷によって手足を失う人々が後を絶たず、月間300人とも言
われる人が地雷の被害にあっている。
 こうした状況を受けて、アフガニスタンでは現在、ドナー各国の支援を受け
て、8,000人とも言われる地雷処理員が活動をしており、一つの産業としては
アフガニスタンで最大と言われている。危険を伴う地雷処理だが、アフガニス
タンの復興の為に命を賭けている地雷処理員は、アフガニスタンの人々から尊
敬を集める。何故なら、地雷を取り除けば、そこには農民が畑を耕すことので
きる大地、羊を放牧することのできる大地、子供達が安全に走り回ることので
きる大地があるからだ。地雷処理は、アフガニスタンが新しい国作りをしてい
く為の礎となる作業であり、身命を賭して母国の為に地雷を取り除く地雷処理
員の行為はまさに、崇高な目標の為の努力「ジハード」なのである。
 象徴的なのは、世界中の多くの宗教がそうであるように、イスラム教でも
「人間は土から生まれた」と考えられていることだ。アフガニスタンのシーア
派の人々の多くは、お金と余裕があれば、イランのマシュハドに巡礼したいと
思っている。第8代イマム・レザーが眠るハラムと呼ばれる廟を訪れ、まるで
高校球児が甲子園の土を持ち帰るように、マシュハドの土でできた小さくて丸
い煉瓦を家に持ち帰るのが夢なのだ。アフガニスタンが新しい国を作っていく
為の土台となる大地が、人間を生み出したと信じられる土によって構成されて
いるという事実関係は、アフガニスタンにおける地雷処理の重要性を雄弁に語っ
ている。
 人間は土から生まれ、そしてまた土へと帰って行く。生命の根源たる大地。
アフガニスタンが生き生きとした未来を手にする為には、その母なる大地を再
び取り戻すことが不可欠だ。            (あおき けんた)
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◆新刊書・論文紹介
 冒頭の「○」は単行本や雑誌、「・」は雑誌に掲載された論文を意味します。
 価格は原則として総額表示としております。

~~~~~~~~~~~~~~《アジア》~~~~~~~~~~~~~~~~

○『国際問題』7・8月 2007年7・8月合併号 No.563電子版
 焦点:危機10周年のアジア経済
 ・浦田秀次郎「危機10周年のアジア経済 教訓と将来展望」
 ・伊藤隆敏「1997年アジア通貨危機 原因と深刻化の理由」
 ・白井さゆり「東アジアにおける金融・通貨分野での地域協力」
 ・澤田康幸「アジア通貨危機と貧困問題 危機後の10年間を振り返って」
   ・・・などを収録。下記のサイトからPDFファイルで閲覧可能  
   http://www2.jiia.or.jp/ebook/

○服部龍二・川島真編『東アジア国際政治史』名古屋大学出版会、2007年6月
  刊(2,600+税)

~~~~~~~~~~~~~《ヨーロッパ》~~~~~~~~~~~~~~~

○植田隆子編『EUスタディーズ1 対外関係』勁草書房、2007年6月刊(\3,885)

・小窪千早「EUの機構改革と欧州憲法条約」『国際問題』7・8月 2007年7・8
  月合併号 No.563電子版(http://www2.jiia.or.jp/ebook/)

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◆編集後記
 「メタボリック症候群の診断基準作りに取り組む国際組織が、『男性85セン
チ、女性90センチ以上』とする日本のウエスト基準値と異なる『男性90センチ、
女性80センチ以上』という独自の日本人向け基準を決めた。」との報道があり
ました(6月17日付け朝日新聞)。思わず記事を切り抜きスキャナーで保存し
ました。近年まれに見る朗報です。◆行きがかり上、告白せざるを得ませんが、
実は私のウエストは89センチ(!)なのです。心優しい同僚諸氏は、そんなに
太って見えないと言って下さるのですが、これまで立派なメタボ症候群と自覚
し、ウォーキングに励んできた次第です。しかし上の国際組織の新基準による
と、晴れてメタボ脱却ということになります。◆私は日頃、なんでもグローバ
ル化という最近の風潮に眉をひそめる方でしたが、ここはなりふり構わず宗旨
替えして、グローバル化礼賛論者になりたいと思います。妙な島国根性はいけ
ません。やはり健康も環境同様に、グローバルに維持しなければ。◆とはいえ、
私はひそかにある野心を抱いています。それは、そう遠くない将来に「やはり
日本人は日本の独自基準でないと!」と堂々の反グローバル化宣言を本欄で高
らかに唱えることです。できれば「食欲の秋」までに。◆先日行われた第9回
秋野豊賞の授賞式の模様がホームページにアップされましたのでご覧下さい。
次号は8月1・15日合併号として8月上旬配信の予定です。     (広瀬)
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ユーラシア・ウォッチ 第114号(2007年7月16日発行)
発行元:秋野豊ユーラシア基金(代表 秋野洋子)
    〒151-0061 渋谷区初台1-51-1 初台センタービル803
編集責任者:広瀬佳一・湯浅 剛
郵便振替02740-2-3000
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(メールマガジン転載おわり)
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by aokikenta | 2007-07-17 21:53 | 日記(カブール)


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