2006年 10月 20日
カラシニコフ
拝啓

 清秋の候、益々ご活躍の事とお慶び申し上げます。
 さて、突然ですが、「カラシニコフ」をご存知ですか?カラシニコフは旧ソ連の設計技師ミハイル・カラシニコフが作った自動小銃で、故障に強く手入れが簡単なことから、世界中で沢山の人々が使用しています。どれくらい故障に強いのかというと、砂塵が舞い飛ぶ砂漠地帯でも滅多に壊れることはなく、熱帯雨林気候のジャングルで水浸しになってもそのまま使えるくらい強いです。手入れは至極簡単で、通常の銃を解体するとねじが1本なくなっただけでも、もう撃つことができなくなるということが起こりますが、カラシニコフの場合は解体しても8部品にしかならず、訓練を受ければ少年兵でも20分くらいで手入れをすることができます。それくらい強くて丈夫なのです。
 僕の働く国アフガニスタンでは、街へ出れば兵隊さんや警察官やガードマンさんが必ずカラシニコフを手にしています。アフガニスタンではカラシニコフは日常の風景の一部です。先日古本屋さんで何気なく、『カラシニコフ』という本を見つけました。松本仁一さんという朝日新聞で編集委員をされている方の著書で、読ませる本です。松本さんは言います。

「腐敗した国家、崩壊した治安、士気の落ちた兵士・・・・・・。そんな取り合わせの中で、AK47(注)はむき出しの暴力でした。クーデターも頻発していました。「共和国」などとたいそうな名前で呼ばれている国家が、わずかな数のAK47で簡単に転覆していました。」(p.266)

 しかし、松本さんは考えます。銃の数だけで言えば、日本の陸上自衛隊には15万丁あり、米軍には200万丁以上ある。しかし、これらの国ではクーデターは起こっていない。それでは、カラシニコフが蔓延する国と日本やアメリカとの違いは一体何なのであろうか。国家と武力の関係とは一体何なのであろうか。
 松本さんは2002年のある日、ある新聞紙上でミハイル・カラシニコフ(当時83歳)のインタビュー記事を見つけました。まだカラシニコフは生きている!その事実に驚嘆し、これは長年持ち続けていた疑問を解く大きな一歩になるかもしれないと思い、この本の素になった新聞連載を書こうと思ったのだといいます。
 僕は「失敗した国々」という題名のつく第四章が好きです。松本さんは国連などの仕事で世界の多くの紛争地で働いた経験を持つ医師の喜多悦子さん(64歳)とのインタビューを引用してこう言います。

「喜多は「失敗した国家」と「そうでない国家」を分ける基準について、「明確で分かりやすい物差しがふたつあります」といった。」(p.177)
「ひとつは「警官・兵士の給料をきちんと払えているか」だ。」(p.177)
「もうひとつの物差しは「教師の給料をきちんと払っているか」である。」(p.178)

 要するに、兵士と教師の給料がきちんと払えているかどうか、が「失敗した国家(failed state)」と「そうでない国家」を見分ける分かりやすい物差しになると言うのです。兵士の給料に遅配が生じるということは、即ち、政府高官が治安の安定化を重要だと認識していないということです。多くの紛争国では、政府が腐敗しており政府高官が利権を得ることに熱中し、本当に国民が熱望している治安への政策をおろそかにしているケースが多々見られます。同じく、教師に対する遅配が生じているということは、教育がおろそかにされている、即ち、国家が復興に対する自助努力の意思を持っていない、ということの証左でもあります。
 この他にも第四章では「NGOにたかる役人」と題して、アフリカの紛争国で植林活動をするNGOが、政府役人から無理難題を押し付けられて、「これをやらないと日本人スタッフのビザを認めない」と脅迫される話しなどが挙げられています。現在、アフガニスタン政府も国際NGOに対する締め付けを強化しているので親近感を持って読みました。
 カラシニコフについてもう少しよく知りたいと思って手に取った本だったのですが、カラシニコフをキーワードにしながら、シエラレオネやソマリアや南アフリカなどで繰り広げられる数編の物語(本の中にはカラシニコフで実際に人を殺した少年や少女の物語が出てくるのです)を読む内に、銃とは何なのか、暴力とは何なのか、国家が国家であるとはどういうことなのか、国家は国民の為に何をしなければいけないのか、などについて考えさせられました。もしご興味があれば、是非ご一読下さい。
 末筆ながら、益々のご活躍を祈念しております。くれぐれもご自愛下さい。

敬具


(注)一般的に「カラシニコフ」と呼ばれている銃とは「AK47」のことを指しており、「AK」とはロシア語の「アフタマート・カラシニコフ」(カラシニコフ自動小銃)の頭文字である。カラシニコフ自動小銃にはAK47の他にも、1958年に改良された「AKM」や、1974年に改良された「AK74」がある。
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by aokikenta | 2006-10-20 23:17 | 日記(カブール)


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