2006年 05月 01日
日本型の経営に反対する若者って多くないですか? 日本が経済大国として世界で台頭し始めた頃から、日本型経営についての研究は盛んに行われるようになった。日本型経営の大きな特徴は、「終身雇用制」と「年功賃金制」である。一度日本の企業に入れば定年まで(年金を含めれば文字通り身が終わるまで)会社に守られて生きられる。欧米と異なり、成果によってではなく年功によって評価され、同期入社は多少に違いこそあれみんな仲良く出世していく。「護送船団方式」と呼ばれる所以である。 大学の頃、日本型経営に反対であった。会社側の視点からすると、終身雇用制では、充分なスキルがない社員でも解雇することができず、高い給料を払って抱えていなければならない。正社員には、派遣社員やアルバイトに比べると、社会保険や厚生年金などの面で2倍・3倍のお金を投資しなければならないので社員を抱えることはかなり重い負担になる。 また、官僚主義的環境では競争意識が生まれず、効率が上がらない。逆に、年俸制の会社では、次の契約更新がいつになるかわからず、常に結果を出し続けなければならない。そういった環境は確かにプレッシャーがきついかもしれないが、生産性を考えると望ましいと思っていた。 しかし、アフガニスタンに来て少し考え方が変わった。 今のアフガニスタンで終身雇用制の会社が現れたらどれほどのインパクトがあるだろう? 翻って、戦後の日本(注)で終身雇用制を打ち出した会社は、大衆にどれほどのインパクトを与えたことであろうか? アフガニスタンでは失業が大きな問題である。現地人の知り合いができれば、「ウチの家族に失業中のやつがいるんだけど、雇ってもらえないだろうか?」と頼まれたり、こちらが何も言ってないのに、「今度こういうプロジェクトが始まるって聞いたんだけど、働ける機会はない?」などとしょっちゅう言われる。 アフガニスタンには本当に沢山の失業者が溢れている。大きな民間企業や援助団体などの数は限られており、そういった組織で働ける人数は少ない。全体のパイが少ない上に、文字の読み書き・英語ができる人が少なく、働ける資格を持った人自体が少ない。多くの人は、農業をするか、ショップを経営するか(ショップと言っても、露天商のようなものが多い)くらいの選択肢しかない。そして、そういうこともせずただ失業中の人が山ほどいる。 だから、家族の中に、一人でも大きな組織に所属して働いて収入を得ているものがいると、みんなでそれに「ぶら下がる」。そういった組織の給与は、一般の労働者に比べると法外と言っても間違いではないくらいいい。アフガニスタンは兄弟が5人くらいは当たり前の大家族制なので、家族みんなでそいつの給料を頼みに生きていく。国の先が見えない。仕事がない。明日食べるものは保障されていない。だから、仕事がある人間にぶら下がる。 もう一度言う、こうした状況で終身雇用制の会社があったらどれだけ魅力的だろうか? 安定した収入が定年まで保障されている。定年しても一定の年金が保障されている。なんとしてでも大きな組織に所属して組織の一部になりたい、と思うのが普通ではないだろうか? 戦後の日本も同じだったのだろうと推測する。先が見えない。親が苦労して自分を育ててくれた姿を見ている。それなら、大きな組織に所属して生きていくという選択肢が魅力的に見えた事だろう。 日本では、組織に所属はしないぜ、自分が好きなように生きていくんだ、という考え方が若者の間で主流になっている。しかし、それができるのは間違いなく経済的に豊かだからであり、アフガニスタンのような状況から考えると、ものすごく恵まれている。 日本型経営が現代日本に合っているのかどうかは議論が別れる所だろう。ただ、こちらに来て戦後の日本に比較的近い状況の国に住んでみて、なんとなく今までとは別の感覚、時代感覚が持てたように思うのだ。年に一度の家族も参加できる運動会や温泉旅行など大家族主義的なところも、「なんかそれわかるぜ」、という気持ちになれるのだ。 日本型経営は日本では時代遅れなのかもしない。けれど、開発途上国では経済発展の有効なモデルとして適用できるのではないだろうか。 (注)「戦後の日本」という言い方は曖昧な表現であるが、1945年終戦から1970年代の高度成長期を迎える辺りまでと理解して頂ければと思う。
by aokikenta
| 2006-05-01 23:30
| 日記(カブール)
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