2005年 11月 20日
「緩衝国家(a buffer state)」という言葉から想起される事について
 「緩衝国家(a buffer state)」というタームは国際政治学やなんかでしばしば使われる。それでは「緩衝国家」というのはどういう意味なのだろうか。卑近な例から手にとって自分なりに考えてみたい。緩衝材というのは貨物を輸送する時に貨物が破損しないようにする為の資材のことである。例えば、指で押すとプチプチ鳴るエアークッションとか発砲スチロールなどがそうである。要するに衝撃を和らげるものが緩衝材なのである。これに習えば、緩衝国家というのは衝撃を和らげる国ということになる。それじゃあ、一体全体何からの衝撃を和らげるんだ?

 世界に2つの超大国があるとする。その2つの超大国は世界の覇権を握るべく、競い合っている。どちらの国も近い将来には相手を倒したいと思っている。しかし、戦略的観点から決戦をするには時期尚早だとお互いが考えている。もう少し天然資源、権益などを得てからでないと勝てる見込みがない。そういう状態だと、どちらの国も直接の対決をすることを忌避する傾向がある。従って、2つの超大国はなるべく相手と隣り合うような状況を避けるように戦略を策定する。

 例えば北朝鮮。現代の超大国アメリカと仲の良い韓国と、もう一つの超大国中国の間に位置し、緩衝国家と呼ばれる事がしばしばある。アメリカも中国も将来的には覇権を握りたいと思っているが、今の段階で国境を挟んで隣接するのは危険過ぎる。もしそのような状況が生まれると、日本、韓国などまで巻き込んだ世界大戦に発展する恐れがある。そこで、アメリカにとっても中国にとっても北朝鮮が衝撃を和らげるのに役立つのである。

 アフガニスタンは典型的な緩衝国家である。19世紀には「南下して南の暖かい海に出たいロシア」と「それを阻止してアフリカ、アラブ、ペルシャから英領インドまで続く植民地の権益を守り抜きたいイギリス」の間で緩衝国家の役割を負わされた(注1)。俗に言うグレートゲームが演じられていたのである。「ゲーム」という名前自体、アフガニスタンや植民地にとっては迷惑な話だが!冷戦期になるとより鮮明に緩衝国家であることが見て取れる。1979年、旧ソ連のアフガニスタン侵攻によって、アフガニスタンは冷戦の縮図の様相を呈するようになった。旧ソ連軍の侵攻に抵抗する為にムジャヒディンが結成され、それをアメリカが支援する。時代こそ違えども、2つの超大国に翻弄される図式は変わらなかった。大国の利害によって翻弄される国、それがアフガニスタンである。

 アフガニスタンは地理的な条件から大国に利用されて来た一方で、様々な文化が訪れた。アフガニスタンは6つの国と国境を接している(注2)。紀元前4世紀には、アレキサンダー大王の東方遠征でギリシャ文化がやってきた。紀元後には仏教文化が入り込んだ。日本でも有名なバーミヤンの仏像はその一例である。その後も、蒙古文化の影響を受けた。カブールでも中国・モンゴルがオリジンのハザラ人をよく見かける。さらにはそれ以降、アラブ文化の影響を受け、現在ではイスラム文化が根付いている。「文明の十字路」と呼ばれるのも納得なのである(注3)。

 色々な要素を取り込んだアフガニスタンの姿に、僕は自分自身の理想像を見ているのかもしれない。否、色々な要素を取り込む機会がありながら、大国の利害に翻弄されて国際社会から見捨てられそれを逸したアフガニスタンに切なさを感じるのだ。アフガニスタンを取り巻く環境やこれまでの歴史の全てが僕の心の琴線に触れ、僕はアフガニスタンに行こうと決意したのかもしれない。僕は元々ジェネラリスト志向が強い。色々なことを熟知した上で、大局的に物事を動かして行ける人間になりたい。もちろんある程度の専門的知識を保有した上で、organizeしたりfacilitateしたりということをすることに魅力を感じる。就職の面接では様々な志望動機を述べたが、本当のところは自分自身の深層心理が突き動かした選択だったのではないだろうか。何故、アフガニスタン駐在員を志望するんですか。自分に再度問いかけてみる。

(注1)山本芳幸『カブール・ノート 戦争しか知らない子どもたち』(幻冬舎、2004年)p.99

(注2)イラン、パキスタン、タジキスタン、ウズベキスタン、トルクメニスタン、中国の6つ。中国と国境を接しているということはあまり知られていない。

(注3)渡辺光一は「文明の十字路」というのは名ばかりで、現在のアフガニスタンは文明が地層のように重なり合った美しい国とは到底言えないと主張する。確かに、現在のアフガニスタンは世界で最も貧しく荒廃した国の一つである。20年以上に及ぶ戦争で破壊されつくした国というのが現実だ。そこで、彼は「戦乱の十字路」という名称の方がふさわしいと提起する。合点がいく主張である。渡辺光一『アフガニスタン 戦乱の現代史』(岩波書店、2003年)
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by aokikenta | 2005-11-20 01:10 | 日記(カブール)


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